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東京アジト大学卒業論文(1-6) 〜はじめに 〜入学前夜

はじめに

左のビルの4階向かって右側の窓がアジト
2014年3月15日土曜日午後、4年を過ごした東京湯島のアパートを引き払う。

来年で50になろうっておっさんに、19歳で田舎から出てきたような新鮮な気分を思い存分味わせてくれたこの部屋について、ちょこっと書いておこうと思った。あんまり詳しく書きまくると連載48回くらいになってしまいそうで、そうなると誰も読んでくれないだろうからできるだけ簡潔に、6回くらいに分けて書こうかなって思ってます。

わりと最近の部屋の様子
忘れっぽい自分のために書くのはもちろん、家族の記録として、あるいは一緒に東京で飲んだり仕事したりあるいはSNSで”東京アジト”について聞かされ続けてきた皆さんへの記録として書いてみようかなと。

僕にとってこのアジトで暮らした4年間は40代後半に入学した大学みたいだったな、と思えたのでタイトルは「東京アジト大学卒業論文」なのです。


入学前夜

引越魔を自称する僕だが、実は東京に住まいを構えて暮らしたことはなかった。90年代から月に一度くらいのペースで上京しては会議に出たり研修会の仕事をする機会があったのだが、いつも安ホテルを転々とするばかりで「暮らす」とはほど遠いせわしなさだった。

そんな僕が東京に住もう、と考えたきっかけは2009年の秋、群馬県高崎市の駅で頸椎ヘルニアを発症した一件だった。この年はやたらと全国走り回ったり22年ぶりにインドに旅行してみたりと無理をし続けたのが見事に祟ってしまいせっかくのシルバーウィークの期間中、駅前のホテルから一歩も動けなくなってしまったのだ。石板のような状態でようやく熊本に戻ったのだけどその筋では著名な整形外科医が僕に言い渡したのは当面の出張禁止令であった。パソコンなど仕事用具一式をゴロゴロ引き摺りながら全国巡るのが頸を痛めた原因だろうと。

そんなわけで2009年の秋はひたすら熊本の自宅で寝てばかりだった。当然のことながら朝から晩まで同じ建物にいる妻や息子とも雰囲気悪くなっていくわけです。高校受験を控えた息子とは毎朝ぶつかりあいの儀式。ほとんどパソコンに向かうことのできない状態の僕は仕事のほとんどを妻に委託したんだけど、あーでもないこーでもないとイライラをぶつけられた妻が黙ってるわけがない。

2009/9/22のツイート
ついに11月26日夫婦げんかは最高潮に達し、僕は寝室で不貞寝するのだが、なぜか唐突に「こんなことならこの家を出ていく」と家出を決意するわけです。当時使っていたiPodTouchで東京の不動産サイトを巡りながら、おや、思ったよりも家賃安いじゃないか、なんて興奮したら眠れなくなった。


興奮冷めやらぬ僕は翌朝妻に「東京に部屋借りたら仕事道具一切を置いておけるわけで、そうなれば僕は手ぶらで出張に行けるようになるから頸椎にも良いのではないか」と一晩考えた言い訳を繰り出した。

妻は例によって「お〜、いいねえ〜、思いついたことは何でもやれ〜、カネはあたしが何とかする」と根拠なき強気でもって背中に特大の蹴りをかますかます。それから二人は奇妙な家出プランに取り憑かれ、どの街がいいとかこの物件はどうだろう、なんて昨晩の喧嘩なんてどこへやらで大いに盛り上がるのである。この時点ですでにアジトはその魔力を発揮していたのだと思う。


湯島で見つけた不動産屋さん
年が明けた2010年1月21日、本郷の某企業での打合せを終えた僕は湯島天神下まで歩いてなんとなく物件でも探そうかと歩きだす。たしかこの辺に仕事関係の会社があったようなあと目を向けたらたまたま小さな不動産屋さんが目に入り、僕にしては珍しくひとつも躊躇せずドアを開けるとそこには仕事のできそうな美人さん。

あの実は僕、東京に毎月来てるんだけどホテル代がもったいないからちょこっと部屋を借りてこっち来てるときだけ寝泊まりするって物件なんてのありませんですか、なんて要領を得ないことを話し出すと、そういう方たまに居られますよ、予算は、条件は、などとあれよあれよと見事に妄想は具現化へと誘導され、気がつけば近くの部屋に案内されていた。

1軒目はとても安かったけどちょっと狭すぎた。2軒目に案内されたのがのちのアジトであった。一発で気に入った僕は写真を撮らせてもらい、妻との酒の肴にすることにした。もちろんこれで良いじゃんいいじゃんてなことに話は暴走し翌朝には仮契約、翌月2月15日からの本契約へ。

僕は久しぶりの引越に胸躍らせ、持っていくものリストや買い物リストをEvernoteに書き連ねては秋以降寝てばかりだった生活の反動だろうけどいつになく張り切っていた。ここでもアジトはその持てる魔力を発動していたのだ。


次回は「1年生~はじめての東京生活(2010年)」に続きます・・・

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