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ステージに立ちながら僕はタイムマシンの実在を確信したのだった

リハーサルというか練習風景
ギターとか音楽について書いてる第3弾、たぶんこれでおしまい。タイトルが何やらハルキ風なのはご愛敬(最近ずっと読んでるせいです)。

あっという間に本番の日がやってきた。2014年11月2日、連休なか日の日曜日。妻の運転するクルマの助手席でもまだネタ曲を聴きながら午後1時にレストランバーに入る。本番は20時過ぎらしいからこれからたっぷりと時間がある。リハーサルというか練習である。なんせ17曲も演奏するのにバンドではまだ2回しか練習していないのだ。しかもブラスセクションに至っては一度も音合わせすることなくいきなり本番なのだそうだ。ひゃープロみたい。

ステージに上がってチューニング
3時間ほどしっかり練習する。今日はこまかなキメとか曲の構成の確認が中心である。考えてみたら1曲あたり一緒に演奏するのは多くて3回程度である。お客さんは飲み放題2,000円で来場するらしい。無料ではないのだ。気の抜けた演奏したら割れたビール瓶が飛んでくるかもしれないじゃないか。演奏中はしっかりと客を見据えてどんなものが飛んでこようが咄嗟に避けるまたは打ち返す練習をしなければならない。

20年前と変わらぬ3人。一人亡くなったことが今でも寂しい。
「じゃあ、本番は楽しんでいきましょう」とカリスマアフロT氏が宣言して夕刻にリハーサルが終わった。メンバー諸君はいったん自宅に戻ったりどこかへ出かけると店を出て行ったが僕はそれどころではない状態なのであった。お店のRoland JC-120(ギターアンプ)に突然妙なノイズが乗り始め、なんだか不穏な空気にまとわりつかれていたからだ。オーナーのアフロ氏に相談し、もう一台のアンプ(Fenderツインリバーブ)に交換することにした。音作りゼロからやり直し。しかも練習なしのいきなり本番。まいったけど仕方がない。ひとりステージに残っていろんな音を試しているうちにスタッフたちは開店準備を始めた。なぜかステージ後方の大画面にはサザエさんが映し出されやたら低音の効く音響システムからカツオの声が響き渡るのだった。

ぶっつけ本番美女ブラスセクション最高
19時過ぎ、客が集まり始める。超満員である。バンドメンバーの家族やら懐かしい顔もたくさん、それに20年前にアスペクタに出た時のメンバーもやってきてくれた。僕はできるだけ酒を飲まないようにしながら気分だけは盛り上げていよいよ1曲目だ。

サプライズボーカリストJD
ステージは前半と後半の2回にわけて8曲ずつ演奏する構成だった。どちらもあっという間に時間が経っていった。僕は思った以上に冷静に弾けたしメンバーの音も良く聞こえていた。だからといって上手く弾けてたってわけでもないんだけど。ソロパートでは「もっともっと」って歓声が聞こえてきて思わず反応してしまった。まだ会って3回目なのにドラムスやキーボードがソロを弾き始めると1拍目の0.2秒くらい前には彼らの演奏するフレーズが聞こえてくる気がした。カリスマアフロボーカリストは僕の前に立っているのだから彼の視線はまったく見えないのだけど、アフロの振動とコッカーばりの手の動きだけで次にどう動けばよいのかはっきりと伝わってきた。ベースとキックの合わせ技のあとに来る奇跡的な空白には僕も音を殺すことでどこかの大陸のビートが再現できた気がした。


それらはすべて20年前に僕が体験していたことだった。
僕らはしっかりと20年分歳を取っていたし、面倒くさいことややっかいなことも経験してそれなりに疲れを溜め込んでいたし、昔ほど自由に振る舞えない立場にいることもおそらく事実だった。けれども少なくとも17曲を演奏している瞬間は間違いなく20年前と同じ大気に身を委ねていたのだと思う。誰かが発するわけでもない奇妙に合体し合成されたビートや和音、そしてどちらが主役だかすでに分からなくなり始めた観客たちの発する声や音や息や得体の知れぬ背景音がカタマリとなって場を包んでいたのだ。

それは紛れもなくタイムマシンだった。僕がギターとかバンドとか音楽とか呼んでいたものの実態はタイムマシンだったのだ。なんてエキサイティングでなんてハッピーでなんてバカげているんだろう。





というわけで3回にわたって書きましたところの音楽シリーズ、ちょいとハルキ風味にこれにておしまい。

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