ばかりが続く空を淡々と眺めていた。こんな景色ばっかり見てたら皮肉っぽくもなるだろうし、でもだからこそここでロック音楽が爆発したのかもしれないし、もしかしたら産業革命だってそのせいかもしれない、なんて妄想膨らましたり。
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赤煉瓦の駅舎と高層ビル |
さらに歩いていくとだんだん寂しい光景になっていく。赤れんがの巨大な駅舎の向こうに超高層ビルがそびえ立って光景はどこか東京っぽい。赤れんがの東京駅みたいなのだ。そもそも東京駅が西洋建築を取り入れて建てられたものだし、世界各地で高層建築が建てられ続けているのだから当然と言えば当然なのだろうけど、巨大な
ユーラシア大陸を挟んだ東西の島国の風景が似ていくってのは面白い。人類の文化ってのは世界のあちこちを行ったり来たりしながらお互いに影響を与え合って変化していくものだと実感する。日本にはまだまだ大勢のビートルズファンがいるし英国にもきっとたくさんのアニメファンがいるように。
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MOSI科学産業博物館 |
さて
MOSI科学産業博物館に到着した。とにかく寒いので中に入る。ここも入場無料だ。受付で金髪青年に
ドネーションはどうだい?って笑顔で挨拶されたので「もちろんでござる」、とここで日本人の心意気を見せつけるように3ポンド寄附だぜ。貴殿らの知見や技術を惜しみなくおっぴろげた心意気に感謝だ。
ここは広い敷地の中にいくつかの展示館が散在している巨大な博物館である。本気で回るなら1日かけろ、なんてガイドブックには書いてある。そんな元気はないので3時間くらいで見て回るつもりで歩き始める。
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人類初の商用コンピュータ |
まず目を引いたのが壁一面に並ぶ古い基板の集合体だった。戦後すぐに開発された
Babyと呼ばれた古いコンピュータの書いてある。マンチェスター大学で開発された世界最古の商用コンピュータらしい。当たり前のように複数のコンピュータを持ち歩く現代からは考えられないようなアナログな機械にみえるけどこれもデジタル機器の祖先なんだなあと感慨深く眺めていると、そういえば手塚治虫のマンガに出てくるコンピュータってこんな感じだったなあなんて思い出す。
それはそうとWikiPediaってすごい。
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なんて可愛らしい機関車 |
Power Hallに入るとごろんごろんとたくさんの
蒸気機関車が並んでいた。もちろん実物である。当然古い。古いけどデザインがとてもポップだ。まるっきりきかんしゃトーマスの世界だ。こないだ京都市の
梅小路蒸気機関車館を訪ねたばかりなのだけど、あの威圧感たっぷりな重厚長大な蒸気機関車たちとちょっと雰囲気が違うのはなぜだろう。子どもたちはもちろん、大人たちも上気して乗り込んだり触ったりしている。そんなところは日本と変わらない。
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ここは産業革命発祥の地 |
その少し奥には蒸気機関に関するさまざまな過去の装置が動態保存されていた。さすがは産業革命発祥の地とされるマンチェスターだ。名古屋市の
トヨタ博物館をちょっと思い出した。あと鹿児島で連れて行ってもらった
尚古集成館も。産業革命の波は想像以上の速度で大陸や海を渡り正確に伝わっていったのだなあと感心する。江戸時代の武士や商人たちもそりゃあ興奮して海を渡っただろうなあ。
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レトロな航空宇宙館 |
さて最後はAir & Space Gallery。外観はあくまで懐古調なのだけど中身は凄かった。たくさんの航空機が展示されているのだけど、なんというか見慣れた形とちょっとずつ異なっているのだ。90年代くらいから世界中の航空機はみな同じようなデザインに落ち着いてきた感じがする。たぶんコンピュータの進化とかで空気抵抗や燃料消費などさまざまな要素で最適化された完成型に近づいてきているってことなのだろう。
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なんだこのエヴァ感満載なジェット機は |
ところがここに並んでいるちょっと昔の航空機はかなりヘンだ。進化の過程で妙な方向にいったまま途切れてしまった古代の生物みたいな感じがする。だからといって古くさいという感じでもなく、むしろ僕が70年代に考えていたような「未来形」としてそこに残っているという不思議な興奮を携えているのだ。一部の人にしかわからないと思うけど、人類進化のほかの可能性としての
使徒みたいな感じです(笑)。
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まちがいなくギガント |
自家用車みたいに小さな飛行機からなにもここまでってな巨大な輸送機に至るまで所狭しと展示されている。イギリスって国が作る機械はとんがってて面白い。ソ連のロケットとかフランスの戦闘機とかイタリアのクルマもそうだけど、あんまり
優しくない感じがしてちょっとドキドキする。アメリカやドイツや日本のデザインの方が絶対売れるし安全だし効率も良いとは思うけど、頭からなかなか離れようとしない何かを発している気がした。
そんなデザインの中で異質だったのが日本のロケット機だった。機体の日の丸を目にしたときは何でこんなところに日の丸試作機が置いてあるんだろうと不思議に思った。でも英語の説明文を読んでいたらこれが戦時中の特攻機であることを知った。
桜花という名のロケット特攻機だった。1944年に発案され、終戦まで755機が作られたという。航空機に吊り下げられ、1,200kgの爆薬を積みロケットエンジンで加速しながら操縦士もろとも敵艦めがけて体当たり突撃するという自爆特攻機だと書かれていた。操縦士の多くはこの機体を作った者の中から選ばれたとも。
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上から見た桜花 |
桜花は他の英国機と明らかに違う雰囲気を発していたように思う。その細部が日本製らしくないのは1回限りという発想のせいだろうけど、それでも全体としてちょっと
優しい、のだ。
naiveなのだ。
周囲の獰猛さを発する戦闘機たちとは何かが違っている気がした。敵ばかりか自分の操縦士まで殺すことを前提としたマシーンとは思えないそのフォルムからは「場違いな感じ」さえ発している。これもまた飛行機の進化の途上で迷い込んでしまった姿なのだろうか。いやそうではない。これは進化の神様とは関係ない。人為的に間違った機械だ。徹底的に間違っている。では何が間違っているというのだろう。しばし考え、「
手段と目的が間違っている」と思うに至った。
太平洋戦争は「外交問題の解決の手段」としての戦争を、どこかの時点で「国家の生き残り」を目的の総力戦にすり替えてしまった壮大な過ちなのだと思った。
それはどこかで「生活のため」の手段として仕事に就いたつもりなのにいつのまにか「会社の生き残りを賭けた」企業戦士に変貌し、迷った挙げ句に年間数万人も電車に飛び込んでいく平成の日本とも通じている。
でも周囲に展示してある英国の戦闘機はすべて「手段」としてしかデザインされていない。敵を効率的に殺戮するという悪意のこもった手段だけど、自国民を殺してまでも国体を護ろうだなんて発想はこれっぽちも感じさせない、ある意味純粋な機械に過ぎないと感じた。
そしてふと
風立ちぬを思い出す。これから僕らがデザインすべき機械について考える。手段に徹し、けっして目的を誤らせることなどない、そして優しくデザインされた機械。僕は桜花を前に立ち止まりそんなことをずっと考えている。
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博物館でランチ |
航空宇宙館はやたらと冷えた。外に出るとさっきよりも雨が強くなっている。博物館内で食事をとることにしてレストランで紅茶とジュースを選んでひとやすみ。雨の勢いは増すばかりだ。仕方がないので持っていた文庫本を読んだり、博物館でみたことをネットで調べたりして過ごしたけど、やっぱり雨はやまない。仕方がないので外に出て歩き始める。傘はホステルに預けてしまったのでユニクロ・ウルトラライトダウンコートのフードだけが頼りだ。でも回りの英国人もずぶ濡れで歩いてる。
Google Mapに従って歩いてるととても狭い
Foot Pathなんかまで案内してくれて、ちょっと楽しくなる。
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GoogleMapはこんな道も案内 |
ようやく路面電車の駅に出た。あまり濡れたくないので帰りは電車でと考えたのだ。でも切符売り場がどこにも見当たらないのだ。人の動きを見ても切符を手にしている人なんて見かけない。きっと車内で買うのだろう、あるいは現金で払うのかな、なんて考えてやってきた電車に飛び乗った。ところが中でも支払うべき機械や相手は見当たらないのだ。iPhoneで検索してみると「改札はないがたまにチェック人が回ってきて無賃乗車には厳しい罰が待っている」との記述を発見。やばい。急に目を泳がせ始めた僕は次の停留所でできるだけ目立たないように紳士然として飛び出したのでありました。英国人よさっきのドネーションで大目に見てくれ。
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ヒルトン通りのドミトリーだ |
今晩のドミトリー、
Hatters at Hilton Chambersについてチェックイン。ヒルトンって名前がついてるけどこれはここの通りの名前であって高級ホテルとは関係ないのであります。預けていた荷物をもって案内された部屋に行く。6人部屋の窓際下の段が僕のベッドということで荷物をおいて少し身体を休める。ちょっと無理しすぎたかな。共用ルームを覗いてみたらテレビでサッカーをやっており英語ではないグループが盛り上がっていた。あとはパソコン片手に何やら入力したりSkypeしている連中がちらほら。屋上カフェは毎晩盛り上がるぜ、って書いてあるけどさすがにこの雨だとクローズに違いない。
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雨の中華街 |
何か食べに行こうと外に出る。微妙な雨だったけどそのうち本格的に降り出した。また傘忘れてきた。でもなんかずぶ濡れにも慣れてきたというか、郷に入れば郷にってやつでこれも英国式だと思って諦めることにした。周囲を見渡すと本当に老若男女みなさんずぶ濡れである。傘率は3割程度。残りもレインコート装着は半分以下で、
徹底的な普段着で濡れてる英国人が大勢を占めている。フィッシュ・アンド・チップスかビールの中に撥水成分でも含まれているに違いない。こんな人たちが歩兵になるんだから戦争しても勝つ見込みがないことはだいたい想像できた。昔の日本人ならまだしも。
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週末のパブは若者でいっぱい |
foursquareで探したパブ
The Waldorfに入ってビールを飲む。最初はそうでもなかったけど、見るみる間に客が増えてきてフロアのほとんどを若者が占める状態となった。そういえば今日は金曜日なのだ。高校を卒業した後もまだ付き合ってる同級生って感じの集団だ。番長ぽいデカ男から派手ハデ化粧の女子、いかにもオタクな青年までみなわいわい誰とでも仲良く飲んでいる。パブは日本の居酒屋ってよく言われるけどちょっと違う。特に最近の個室居酒屋チェーンみたいのとは全然違う。もっとPublicな場所だ。名前通りに。
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ベトナムフォーで身体を癒す |
〆はやっぱり麺だろ、と中華街をうろうろするが、どこも王将みたいな気軽なお店ではない感じだ。白いテーブルクロスのお店にはなかなか一人では入りづらい(てかもうそろそろ金がない)。見つけたのは
ベトナムフォーの専門店。フォーは毎日食べても良いくらい大好物だし、暖まるしこれしかないよと地下に入ると、まさに僕の目指す大食堂的な空間だった。フォー・ガーを頼んで瓶ビール片手にずるずるやってるとまるでベトナムにいるみたいな感じだ。働いている人もみんなベトナム系みたいだし。しっかり生き返った。
また濡れながらホステルに戻り、ベッドに入ってシャワー浴びる準備してたらそのまま寝てしまったようだ。気がついたら4時間も経っていた。午前1時だけど満室の6人部屋中3つのベッドは空いている。週末の夜を楽しんでるのだろう。ざっとシャワーを浴びて再びベッドに入ってぬくぬくしていたら遊び人たちが帰ってきたようだ。完全に酔っ払ってる。夜中に寒さでなんどか目を覚ます。ここの窓も完全に閉まらないのだロンドンみたいに。マスクして防寒対策してると隣のベッドの男が毛布をはだけ、
上半身裸で快眠している姿が目に入った。いかに飲んでるとは言え、君らには永遠に敵わんわ、と思い知る。まあ勝ち負けではないんだけろうど。外からはどこかのクラブから騒音が侵入してくるリヴァプールみたいに。まあいろいろ面白いとこだなマンチェスター。
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