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2015年1月に読んだ本の記録

ここ三年ほど年末になると一年間に読んだいろんな本を引っ張り出してきては再読し、メディアマーカーというネットサービスに感想文を書き散らすという作業をやってきたのだけど、さすがにそれはそれで大変な時間と労力を要するのでだんだんしんどくなってきた。
今年は毎月書いていこうかな、そのほうが楽かもしれないと思いついて書き始めました。いつまで続くかわからないけど。
というわけで1月は9冊読みました。わずか1ヶ月前に読んだ本でも既に忘れている、ということに気がついていよいよヤバいなあ、というのがはじめてみた最初の感想だったりします。

期間 : 2015年01月
読了数 : 9 冊
イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書)
内藤 正典 / 集英社 (2015-01-16)
読了日:2015年1月30日
イスラム国に関する本では黒井氏「イスラム国の正体」のに続いて2冊目となる。こちらもSession22で知った。結論から言えば「両方を読んでみてよかった」となる。双方に共通する指摘もあるが、考え方としてはかなり異なっている。黒井氏は武力の介入をさらに徹底することでこの問題を解決すべきと考える。一方で本書の内藤氏は武力の行使は禍根を増やすばかりで解決には繋がらないと説く。専門家でない僕は単純な判断を下すことができない。

だから医療にたとえて考えてみようと思う。
むし歯ができたとする。放っておけば感染は広がり他の歯も危うくなる。できるだけ早期に抜くべきだ、という考えがある。あるいは悪いところを削り、金属やプラスチックで補修しようとするのが少し前までの歯科医療の主流だった。
ところが今世紀に入る頃からその考えとは別の治療法が主流に変わりはじめた。すなわちまずは予防が大事だという考え方だ。そのためには患者さんの食生活にまで介入する。歯ブラシはもちろん、むし歯が発生するメカニズムを知ってもらい、どうすれば予防できるかという知識を十分に与えることでまずはむし歯の発生を最小限に抑えようと考える。次にむし歯の発生を確認してもすぐさま抜いたり削ったりはせず、その進行具合を細かく観察した上で、自然治癒できる範囲であれば経過観察に留めようとする。それでも駄目ならできる限り小さな範囲を切除し、徹底的に悪くはなっていないがすこし心配な周辺部分は削らず、その他の方法で長期経過をみようとする。その間にも患者さん自身に口腔内を清潔に保ったり間食を止めさせるような指導を強化する・・・といった治療法が歯の世界では確立されつつある。

イスラム国の話に戻るけど、宗教的対立や先進国との歴史的な確執はこれから先もなくなることは無いのだろうと思う。だとすれば「悪いところを取り除く」という手法には限界があるのではないか。地球上を滅菌することはできない。たとえば口腔内を徹底的に滅菌するためにはまず患者自身を死体にしないと無理なように。

この本のハイライトは同志社大学にアフガニスタンの政府側要人とタリバンを呼び、その夜近くの居酒屋でともに鍋を囲んだシーンだと思う。読みながら涙すら浮かんだ。柄にもなく感動したのだ。武器より鍋なんだ。きっと遠い昔、戦国時代の武将たちも京都のどこかで思わぬ相手と鍋を囲んだりしたのではないか、なんて想像した。と同時に日本人ジャーナリストの首を切った黒服の男も今ごろ眠れない夜を過ごしているのじゃないか、と想像した。

まとまらない感想になってきた。でも僕はこの本を読んで良かったと思った。
太陽・惑星
上田 岳弘 / 新潮社 (2014-11-27)
読了日:2015年1月26日
Session22に出演した豊崎社長の書評を聞きながらその場で注文した。ハードカバーのSFなんて久しぶりかも。
タイトル通り「太陽」と「惑星」に二つの小説が収められている。だけど二つの物語は近接していて意識しないと読みながらも混じり合っていく。人間がその寿命という制約から逃れたとき、時制という感覚も曖昧になるに違いない、と思えてくる。小松左京のようなスケールで人類は太陽系を金に進化させていくというおとぎ話のようなSFのような伝奇小説のような。

惑星も面白かった。人類のよきことに忠実なフレデリック・カーソンはGoogleなんだろうとか、いやジャレドだとかいろんな妄想をあてはめながら何度も読み返すに足る作品に違いない。

読みながら脳裏に浮かぶのはやはり初期エヴァンゲリオンのAirだろう。筒井康隆の古い小説「幻想の未来」をも思い出す。平行して読んでいた宮台真司が盛んに語っていた「フィールグッド・ステイト」というキーワードにも敏感に反応した。
またすごい若手が出てきたもんだ。
イスラム国の正体 (ベスト新書)
黒井 文太郎 / ベストセラーズ (2014-12-09)
読了日:2015年1月25日
日本人拘束事件の真っ只中なので、ちょっと勉強しておこうかと検索して買ってみた。
丁寧に解説されているのはまさにリアル北斗の拳な世界だがすべて現在進行形であることに目眩を覚える。著者は米軍による徹底介入、さらにはアサド政権をも打倒することでの解決を提案しているようだ。

読了後、日本人2人の殺害という衝撃的な事件が起こった。国内も大騒ぎとなった。ある者は彼らを殲滅せよと叫びある者は世間を騒がせた二人を糾弾し、またある者は政府の対応を非難する。いったいこの問題はいつの日か完全に解決することがあるのだろうか。著者が主張するように、適切な武力を適切な時期に行使することで、世界は安定へと向かうのだろうか。僕にはわからない。分からないけど少しでも多様な情報を得ながらひとつの考えに固執したりしないように生きていくしかないのだと思う。

プロローグ 内戦が生んだ自称国家
第1章 殺しの軍団
第2章 イスラム国~その出自と成長
第3章 怒涛の進撃
第4章 オバマVSイスラム国
第5章 イスラム国の知られざる実像
第6章 ネット戦略と海外ネットワーク
第7章 イスラム国はなぜ残虐なのか
第8章 イスラム国の今後
孤立死 あなたは大丈夫ですか? (扶桑社BOOKS)
吉田 太一 / 扶桑社 (2010-12-22)
読了日:2015年1月24日
ジップロックに入れたKindle PaperWhiteを風呂場に持ち込み、だらだらと読むのが最近の趣味なんだけど、果たしてこの本がその状況に適してたかどうかはわからない。でもほとんど最後まで一気に読んでしまった。
幸いなことに身内の不幸がほとんど無い状況が続いているけどこれから先はどうなるか分からない。
ここに書いてある通りみんながワガママだけど憎めない老人になればよいのだろうけど、現実には大人しいのになぜか憎まれる老人になってしまいそうな気もする(少なくとも自分は)。気をつけよう。
Amazon日替わりセールでダウンロード。
謎の独立国家ソマリランド
高野秀行 / 本の雑誌社 (2013-02-20)
読了日:2015年1月16日
正月明けから小難しい本ばっかり読んでたらなんか疲れてきて心だけでも他の大陸へぶっとべる話をと読み始めた。いつもの高野節にニヤニヤしながらページが進む快楽。高野秀行の本にはイスラム飲酒紀行以来、すっかりハマってしまい、夫婦で回し読みしながら読み終えると次の本へ、と終わるところを知らない。
しかしこの本はいままでと別格だった。おそらく著者の入れ込みようもいままでよりも深かったように感じる。
最初は気軽な旅行記として読んでいたのだけど、その途中でイスラム国による日本人誘拐という衝撃的なニュースが始まった。テレビでイスラム世界のおどろおどろしさが繰り返されるなか、Kindleに目をやれば人間性溢れるソマリア人たちの日常が描かれる。でもその奥にはついこの間まで悲惨を極めた内戦の歴史があるのだ。どうしたものだろう。シリアやイラクもいつかソマリランドのような平和が訪れるのだろうか、と読みながら何度も思う。宗教や氏族を西洋の単純な理屈で分断した結果の内戦という意味では共通する点が多いと感じたからだ。

読み終えるとソマリランドに平和をもたらしたのは長い時間をかけて社会に蓄積された智恵であったことがわかった。そして「たいした資源もないこと」「内戦を繰り返したからこそ戦争の終わり方を知っていること」がソマリランドが戦争を終わらることができた要因だと指摘する。

読了後、彼らソマリ人のそうした智恵こそが衝突を繰り返す地域にまっさきに輸出されるべき最重要の資源なのでは、と感じた。
最貧困女子
鈴木大介 / 幻冬舎 (2014-11-07)
読了日:2015年1月15日
散歩中、PodcastでSession22で著者の出演する回を聴きながらその場でダウンロードした。読み始めてからは、ほぼ1日で読んでしまった。これまでに想像もしたことのない世界が描かれていた。これは都会またはその周辺都市にだけ見られる世界なのだろうか。地方都市にもこんな人たちが生きているのだろうか。たぶん生きているのだろう。僕の生きている世界からは見えないところで生活している人たちは確実にいるのだろう。

いったいどうすればよいのだろう。著者と同じく僕はどうしてよいのかわからないまま、読み進め、そして読み終わってしまった。三つの無縁(家族の無縁、地域の無縁、制度の無縁)、三つの障害(精神障害・発達障害・知的障害)を少しでも解決の方向に進めるちからはどこかにあるのだろうか。

いろいろ考え、つまるところ(すこし残念な感じはしたけど)僕にできることでもっとも有効なことは「納税」なんじゃないかって考えに至った。きちんと納税したうえで、このような見えづらい世界にもきちんと制度の網が届けられるように、有効に機能するように見届けることが結局のところもっとも手短な手段なのではないかと思えたのだ。個人で動くには手に余ることだけど、その道のプロを支援することで社会的に包摂していくことができる分野というものもあるはずだ。

もちろん納税さえしとけば義務は果たせた、なんて主張するつもりなど毛頭ない。政府や自治体に任せきりにすることなく地域で可能なこともたくさんあるに違いない。でもだからといって「政治など頼りにすべきでない」という態度を貫くのもなんだか違う気もして。

日本にはもう食うに困る若者なんていないはずだ、と思い込んでいた自分が情けない。
この本で知った「貧乏と貧困とは違う」という言葉はとても重たい。
貧困と、その世代を超えた固定だけはなんとかしないと社会の底が抜けてしまう。
トマ・ピケティ『21世紀の資本論』を30分で理解する!―週刊東洋経済eビジネス新書No.76
週刊東洋経済編集部 , 池田 信夫/平松 さわみ / 東洋経済新報社 (2014-10-01)
読了日:2015年1月8日
翻訳本を買おうと思ったらAmazon品切れだったので先にこちらを読んでみることに。Kindleをジップロックに入れて風呂場でざっと読む。ピケティが主張しているのは「資本主義の宿命として、労働者が地道に働いて達成する成長率よりも、金持ちが資金を元手にさらに儲かっていく成長率の方が大きいことが過去の調査でわかった。だからこのままでは格差が拡大する一方だ。それを避けるためには国際的な連携をしながら所得税を強化し再分配しなければならない」ってことでいいのかな。

だとすればそれは現代日本における平均的ビジネスパーソンの実感とも一致する。
ピケティが中古で出回ったり、電子書籍で販売されたら一読してみようかな。
Androidアプリ開発が5日でわかる本(日経BP Next ICT選書)
安藤正芳 / 日経BP社 (2014-12-11)
読了日:2015年1月7日
iOSアプリとどう違うのかあととりあえずダウンロードして読んでみた。概要としてはなんとなくわかった気がしたけど専門的すぎて細かなところはほとんど理解できず。でもいろいろ大変なことだけはわかった。そして自分で作ろうという考えは消えた。
プーチンはアジアをめざす 激変する国際政治 (NHK出版新書)
下斗米 伸夫 / NHK出版 (2014-12-11)
読了日:2015年1月5日
今年初めて購入した本になった。年末にだれかの書評でみかけ気になっていたことを年始の実家で暇を持て余しているところで思い出し、Kindle購入した。
日本で読むことのできる海外ニュースソースの多くは欧米発のものだろうから、たとえばウクライナ問題に関してロシア視点で描かれることは少ないのだと思う。この本はロシア側からみれば世界はどう見えるのか、という点で大いに参考になる。

プーチンという男の能力を高く評価しつつ、実は彼の原点が古儀式派という宗教にあるという指摘は新鮮だった。またウクライナ問題がカトリックと正教との問題に起因するとも。チェチェンやISISの問題でもそうだが21世紀になってもまだまだ宗教は地球上の大きな争点であることを思い知る。

人口の8割がヨーロッパ側に住みながら資源の8割がアジア側に存在するというロシアが今後アジアへと向かうという指摘はその通りだろう。またこれから地球温暖化とともに北極海の航路が開け、シベリアが農地にとして開発されるという予測など、亜熱帯や温帯に住む日本人からはなかなか出てこない視点だと思った。
ついこの間まで地球上のもう一つの大国であり、日本からはなかなか実態が見えにくいことから時には悪の帝国、時には理想郷のごとく語られたソ連という国が、いまやプーチンという一人の男にその命運を託す国家として広がっている。以前に比べるとその実情を知ることは容易になったはずだ。我々はもっと彼らのことを知るべきだろうと思った。

第1章 シー・チェンジの国際政治
第2章 ウクライナで何が起こっているのか
第3章 ロシア外交の核心
第4章 素顔のプーチン
第5章 プーチンはアジアをめざす
第6章 変貌する国際政治地図

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