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2015年10月に読んだ本の記録

期間 : 2015年10月1日 ~ 2015年10月31日
読了数 : 11 冊
動物農場 (角川文庫)
ジョージ・オーウェル , 高畠 文夫 / KADOKAWA / 角川書店 (2015-01-25)
読了日:2015年10月31日
オーウェル作品にはどこか中毒性がある。彼の文章に振れていると自分の思考様式がだんだん彼っぽくなってくる気がするのだ。動物農場はとても考えられた寓話だ。スペイン内戦で体験した革命への冷ややかな視線を読むうちふとビートルズのRevolutionを思い出した。
次の短編「像を射つ」はとても美しい物語で僕は好きだ。短編「絞首刑」では次の文章が秀逸。
"彼の爪は、彼が絞首台の踏み板の上に立ったときも、十分の一秒間だけ生命を保ちながら空中を落下していく、その瞬間にも、相変わらずのび続けるであろう。"

開高健の解説は解説に留まらない優れた作品としても読める。
"理想は追求されねばならず、追求されるだろうが、反対物を排除した瞬間から、着実に、確実に、潮のように避けようなく変質がはじまる。"
ああ、なんて格好よいんだろう。

・動物農場
・象を射つ
・絞首刑
・貧しいものの最期
・24金の率直---開高健
生身の暴力論 (講談社現代新書)
久田将義 / 講談社 (2015-09-20)
読了日:2015年10月28日
著者のツイートで知ってダウンロード。久田氏の本は3冊目かな。
僕の思う「暴力」とは殺伐とした世界だ。筋力で、あるいは言葉の強さで相手を打ちのめす。やらなければやられるからだ。人類はながいことそういう世界をサバイブしてきた。運良く殺されなかった人間が次の時代を作り、せめて自分の子どもたちにはそんな思いをさせまいと努力した結果、いまの平和の世の中が実現したのだと思う。
ところがまた暴力の芽が復活しつつある。それは平和の副作用なのかもしれない。あるいは極度に純化された社会の反作用かもしれない。身の回りから暴力が一掃され、あるいは目隠しされた来た結果暴力の持つ深刻さは忘れられ、現象としての格好良さだけが目立つようになった。進化したテクノロジーはそもそもが軍事からの転用であるわけで、当然その生まれつきの暴力性が解放されたとき、世の中は再び殺伐としてしまうのだろう。
だからこそ「暴力」とは何か、という基本的な問題にいまいちど取り組む必要があるのだと思った。暴力論、が望まれる時代になってしまった。
介護ビジネスの罠 (講談社現代新書)
長岡美代 / 講談社 (2015-09-20)
読了日:2015年10月26日
たまたま交渉していた仕事相手が介護関係に詳しかったので僕もこの機会に少し勉強しておこうかなと読んでみた。考えてみれば僕も50を過ぎ両親も80を過ぎたので他人事とばかりは言ってられないわけで。どちらかといえば告発系の本なので暗澹たる気分にもなりがちだけど、考えてみれば日本の医療ビジネスの実態についての問題は何も介護に限った話ではない。資本主義と社会主義という相反する二つの政策の境界上に位置する医療ビジネスの宿命みたいなものだろう。かなりの確率でその当事者の一人となる可能性は高いのだから本書に限らず少しずつ情報と知識を得ていくべきなんだろう。余談だけど、読み終わるまで著者はずっと男性だと思い込んでいた。それくらい力強い取材と筆致だった。


第1章 入居者の「囲い込み」は当たり前—ケアマネジャーは敵か味方か(介護の劣化をもたらした「サ高住」
資産活用で建設需要の掘り起こし ほか)
第2章 “二四時間・三六五日対応”のウソ—患者紹介ビジネスと在宅医療の問題点(来てほしいときに来てくれない「在宅医療」のワケ
紹介料は一人あたり月八〇〇〇円 ほか)
第3章 「老人ホームもどき」の増加にご注意—悪いのは事業者?それとも行政?(高齢者虐待防止法に抵触
増加する「老人ホームもどき」の弊害 ほか)
第4章 家族の弱みにつけ込む「看取り」ビジネス—救急車を呼ばず延命措置もしないワケ(続出する胃ろう難民
やたらと多い小窓のワケ ほか)
第5章 「胃ろう」の功罪と解決策のヒント—求められるケアの改革(「尊厳死の法制化」は誰のため?
障害者団体が抱く危機感 ほか)
聞き出す力
吉田豪 / 日本文芸社 (2014-12-19)
読了日:2015年10月24日
大阪出張の帰り道、Amazonのセールを見つけてダウンロード、機内で半分を読み自宅のベッドで残りを半分を読んだ。吉田豪氏の話はコラムの花道時代からTBSラジオのPodcastで聴いてたので耳にしたエピソードも多く時には懐かしく読むことができた。僕も仕事がらいろんな人と話をすることが多いけど、でもどちらかといえばこちら側が一方的に説明するばかりであまり人の話を聞く時間的余裕がないことが多い。その意味ではためになりました。もちろん基本的には楽しいコラムだけど。媒体に合わせたのだろうけど、ラジオから聞こえる吉田豪の話し言葉のほうが、ここに書かれた彼の書き言葉より、より複雑で思慮深く聞こえるのはちょっと新鮮な感じ。
酒場歳時記 (生活人新書)
吉田 類 / NHK出版 (2004-09-10)
読了日:2015年10月24日
僕らの晩酌の師匠、吉田類による歳時記。日替わりセールで購入したあとずっとKindleに入れっぱなしで時おり時間が空いたら読むなどしてたの読み終わるまでずいぶんと長く一緒に過ごした気がしていた。いつも思うけど吉田類はテレビでみる酔っ払った姿と、山登りしたり俳句を詠んでいる時の文章から見えてくる姿とは微妙に異なる。ひょっとすると本物のインテリなんじゃないか、と思う、と描いたら少し失礼だろうか。
シベリア抑留―未完の悲劇 (岩波新書)
栗原 俊雄 / 岩波書店 (2009-09-18)
読了日:2015年10月21日
栗原氏の著書は「特攻-戦争と日本人」に続き2冊目。親戚にシベリア抑留された伯父がいたし、父も満州生まれといった身近な例もあり取り寄せてみることにした。本書で描かれるのは敗戦直前の満州からソ連の参戦、シベリア移送、強制労働と収容所における民主化運動、帰国と裁判闘争などだ。日本との条約を一方的に破棄して一方的に参戦しあげくに理不尽なシベリア抑留を強制したソ連に対する国民感情はかなり批判的だが、どうやらソ連ばかりか連合国、日本の指導者に至るまで黙認した疑いがあるとの記述には驚かされた。また日本軍も情勢次第で条約を一方的に破棄する用意があったらしいことなどもあまり知られていないことなのだろう。
シベリア抑留と長く続いた強制労働はたしかに異常な事態だった。しかしその異常な事態の原因はいったいどこにあったのだろうか。誰の責任だったのだろうか。それとも「そんな時代」とか「戦争なんてそんなもの」なのだろうか。明らかにされていないこと、僕に理解できていないことはまだまだ多い。
ここから先は思いつきの私論なのだけど、「計画経済」という社会主義体制特有の冷徹さもひとつの原因としてあげられるのではなかろうか。2千万人に及ぶ貴重な労働力を戦争で失ったスターリンは、それをドイツや日本の敗戦国の元兵士で補おうと考えたそうだ。それはすべてスターリンの個性(もしくは狂気)の問題に帰する発想だろうか。革命・建国からさほどの時を経ない状況だったソ連が、国民の幸福や市場の発展拡大などを優先した民主的な発想を持ち得なかったことは明かだが、彼らは「○カ年計画」という官僚的なスケジュールを達成することだけを最優先の指標として冷徹に行動したのではないかと思うのだ。その官僚的硬直性は日本の関東軍だってじゅうぶん持ち合わせていたに違いないだろうが。

21世紀の日本を見渡すと、会社の「計画」や「予算」をなんとしてでも達成しなければ組織の将来がないとか社員が見捨てられるといった話がごろごろと転がっている。そう考えるとなにもソ連や関東軍だけの問題でもないかもしれない。シベリア抑留に至った狂気はまだ続いているのかもしれない。
世界の辺境とハードボイルド室町時代
高野 秀行 , 清水 克行 / 集英社インターナショナル (2015-08-26)
読了日:2015年10月18日
高野秀行本は夫婦して大好物なのでこの本も速攻で注文しすぐに読んだ。ラジオ番組で聴いていたとおりの面白さだった。折しもISISが問題になっている時期だ。彼らが異教徒の首を誇らしげに刎ねたというニュースに触れるたび、まるで日本の戦国時代じゃないかと感じていた。辺境におけるハードボイルドな時代には案外世界に共通するパターンがあるのかもしれない。
インターネットによって地球は狭くなったと言われるけど、そんなに人類はヤワな存在じゃない気がしてくる。そうそう簡単に進化したり変化したりする生き物じゃないって意味で。
プリンス論 (新潮新書)
西寺郷太 / 新潮社 (2015-09-17)
読了日:2015年10月13日
何だかんだいって西寺本もほとんど読んでる。一方のプリンスについては多作ということもありコンプリートにはほど遠い。でもこの本をざっと読むだけであの異色な天才の物語が少し理解できた気がするのでちょっとお買い得だった。それにしてもYouTubeにはほとんど作品が載ってないし、AppleMusicにもほぼプリンス作品がないので買うか借りるかでもしないとプリンスに触れられないってのはもったいないというかハードル高いというか。でもまあそんなアーティストが一人くらいいても良いか。

プロローグ
第1章 天才、登場! (Minneapolis Genius)
第2章 紫の革命 (The Purple Revolution)
第3章 ペイズリー・パーク王朝 (The Paisley Park Dynasty)
第4章 「かつてプリンスと呼ばれたアーティスト」(The Artist Formerly Known As Prince)
第5章 解放と帰還(Emancipation to Way Back Home)
第6章 さらなる自由へ(Free Urself)
右傾化する日本政治 (岩波新書)
中野 晃一 / 岩波書店 (2015-07-23)
読了日:2015年10月12日
戦後の政治史を振り返りながら安倍政権に至るまでの日本が振り子のように振れながら次第に右傾化してきたと観察する本。ガストに長居して一気に読んだ。中学の頃に大平首相が急死したニュースをみていた記憶がある。あーうーという口癖くらいしか覚えていなかったがこうやって流れのなかでひとつひとつの政権をみていく体験も有効なのだと思った。

個人的に右傾化という言葉は「プライド」という単語と結びついている。

お国自慢から国粋主義者に至るまで、自らのプライドを所属する土地や組織に重ねる傾向が強くなっていくことが僕にとっての右傾化、のイメージである。

個人がたまたま属している組織やたまたま生まれた土地と過剰にオーバーラップさせることで獲得することのできる「誇り」や尊厳」の感情は時として麻薬のような高揚感を与えてくれる。オリンピックやワールドカップだったらさほどの害はないけれど、たとえばシャッター街の二世経営者たちがこぞって日の丸を振り回す姿なんてのは滑稽だしヘタすると哀愁すら振りまいてしまうものだから、プライドって感情の取り扱いにほとほと苦労させられる。
カタロニア讃歌
ジョージ・オーウェル / グーテンベルク21 (2015-04-17)
読了日:2015年10月6日
ジョージ・オーウェルの本はこれで「1984」,「パリ・ロンドン放浪記」に続く3冊目。今までではもっとも若い時期に書かれた戦争従軍記だ。ちょうどバルセロナに旅行するのでとKindleに仕込んでいったのだけど帰りの飛行機から読み始め、読み終えたのは日本に戻ってからだった。でもそれが良かったのかもしれない。なんども歩いたランブラス通りでの市街戦や陽気なカタロニア人たちの描写をリアルに感じたからだ。80年も前に書かれた書物なのに。

読んでいるうちにふと思い出したのは近藤紘一氏の描いたベトナム戦争記だ。「サイゴンの一番長い日」や「サイゴンから来た妻と娘」、それに「戦火と混迷の日々―悲劇のインドシナ」を読んだことがあるのだけど、都市における戦火と市民の表情に共通するものを感じたのだ。40年ほど時代が離れているのに、似ていると思ったのはスペイン人とベトナム人という共に半島に暮らす人々に何か通じるものがあったのかもしれない。

二つの世界大戦の間に起こったスペイン市民戦争について、ほとんど何も知らなかったのだけど、ここのところヘミングウェイやオーウェルを読み、現地を訪れたことで実はその戦争が現代日本にも大きな影響を与えていることを知った。これからももう少し掘り下げてみたい。
たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)
辻田真佐憲 / イースト・プレス (2015-09-10)
読了日:2015年10月3日
僕はこうして書物や映画や音楽などのいわゆるエンターテインメントが大好きで、というかその他のものにあんまりお金を使うことがないのだけど、そんなエンタメ(誰だよこんな妙な略語考えて流行らせたのは)の中にしっかりプロパガンダが仕込まれてきた歴史を紐解いた本。

ナチス、ソ連、北朝鮮、アメリカ、そして戦前戦中の大日本帝国、さらには現代日本においても「楽しいプロパガンダ」はそこら中に溢れている。楽しくなくても「義憤」「悲しみ」といった感情もいちいち計算され、それがどちらへ向かうべきかまで誰かが仕込んでいるかもしれない。

それは悪の親玉が考える陰謀などではなく、たいていの場合「この方が売れるから」であり、しかも「世の中の役に立つ」というエクスキューズも成立させた商行為であることが語られる。つまり僕らが日常的に社内のマーケティング会議で繰り返しているヒット商品狙い企画そのものだってことだ。

では僕らはそれにどう対抗すべきだろうか。簡単に言えばリテラシーを高めろって話になる。だけど具体的にはどうすればよいのだろう。僕の答えは「多読」である。本でも映画でも音楽でも日ごろあまり接していない人間ほど強烈に仕込まれたプロパガンダに反応してしまうことが多いのだと思う。「目からウロコ!」とか「けっして報道されない真実!」とかそういうたぐいの。だから僕はできるだけたくさんの作品に触れることで、そんな一時の感情を薄めていくしかないと思っている。プロパガンダでない本物はそのなかでもしっかり残っていくはずだと信じるよりほかない。

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