スキップしてメイン コンテンツに移動

2015年12月に読んだ本の記録

毎月書いていけばよいのだろうけど3ヶ月分も溜めると大変。でも少し時間を置いてからの再読はとても良いものだ。
期間 : 2015年12月
読了数 : 10 冊
酒呑まれ (ちくま文庫)
大竹 聡 / 筑摩書房 (2011-11-09)
読了日:2015年12月21日
妻が買って読んだ後ぜったい面白いから読みなさいと。たしかに面白い。トイレに入るたびに2〜3章ずつ読んでたら1週間ほどで読んでしまった。著者は僕と同じ年に大学に入っているらしい。とは言っても東京の大学だから京都で過ごした僕の学生生活はずいぶんと風合いが違っていたようだ。僕も東京に進学してたら同じような生活を送ったのだろうか。いやそんなこともないと思う。どこで暮らそうとだいたい似たような生活になるに違いないからだ。僕も酒飲みの部類だとは思うけど、身体が頑丈ではないのですぐに潰れてしまう。正確にはその夜はけっこう大丈夫なんだけど、翌朝から数日体調を崩してしまう。だから自ずと飲む量も限られてしまう。当然バカもしないしたいして他人様に迷惑を掛けていないはずだ。
なんて考えていたのだけど最近はスマホにカメラがついてたりして、時刻おまけにGPS情報までくっついた写真がたくさん残ってたりする。時には仲間から送られてきたりする。そして恐ろしいことにそのほとんどに記憶が付随していないのだ。あなおそろしや、酒の場で僕が記憶していることはそのほんの一部分だけだったらしい。僕もどうやら酒呑まれの一人だったようだ。
曠野の花―石光真清の手記 2 (中公文庫)
石光 真清 / 中央公論新社 (1978-11-10)
読了日:2015年12月30日
石光真清3部作の第2巻。100年前の和製冒険小説だよと渡されたとしてもたぶんそのまま信じて読んでしまったと思う。巻頭にある満洲要図をなんども見ながら読み進めるが、そのうちiPadで地名を検索しGoogleマップでその位置関係を調べたり、そのままWikipediaでいろいろ調べたりしているうちに1日のほとんどをこの本に注いでしまった。ウラジオストク、ブラゴヴェヒチェンスク、ハバロフスク、哈爾浜。登場するのスパイ家業の本人に加え馬賊の頭目、ロシアの軍人や商人たち、大陸を放浪するキャラの塊のような日本人たち、特に女たち。

満洲とは日本にとっての「西部」だったのだとふと気づいた。アメリカにおける西部劇の西部だ。世界中から転がり込んできたガンマン、採掘者、盗賊、そして現地人、鉄道野郎たち。まんまじゃないか。そんな状況の中、勤勉で清純だと評価されていた日本人、特にその軍人たちがどうしてこのあと無謀な戦争に墜ちていったのだろう。それはきっとまじめさの裏返しなのかもしれないと思った。大陸人たちのおそるべき不真面目さと、島国で箱庭のような国土を目出る日本人の極端な生真面目さがぶつかったとき、正と負の化学反応が同時に起きたが、不幸なことに負の反応が大きすぎたのだろう。
望郷の歌―石光真清の手記 3  (中公文庫 (い16-3))
石光 真清 / 中央公論新社 (1979-01-10)
読了日:2015年12月20日
石光真清の4部作を読んでみようと取り寄せたのだけどなぜか3作目の本書を一番先に読み始めてしまった。なぜか分からない。読み終えて次に取り掛かろうとしたときに初めて気づいたのだ。それまで一度も変だと思わなかった。それくらい完成された作品だと思う。
京都で手嶋龍一氏の講演に接し、その後の懇親会にて名刺交換した際「熊本のご出身でしたらぜひ石光真清さんについて勉強してみてください」と言われたのがきっかけでまとめ買い、すぐに読み始めた。

石光真清とはそれまでまったく知らない名前だった。明治元年に熊本で生まれ、満洲、シベリア各地で軍の諜報活動に従事した人と知って俄然親近感を抱き、読み進めることとなった。明治人の手記であるが、息子さんがリライトしているとのことでとても読みやすい。それにしてもどうしてこんなことまで覚えているのだろうと不思議ににもなったけど明治の諜報家ともなればそれくらいたやすいのかもしれない。
本書は日露戦争の前線から始まる。1904〜5年のことだから第一次世界大戦の10年ほど前の時代だ。そのせいか特に戦場シーンなどでは少し後のレマルクやヘミングウェイと共通した雰囲気を漂わせる。今から100年前の前線の空気が伝わってくる。日露戦争後、日本となんどか行き来しながら中国大陸で怪しい商売に手を出しては失敗する姿は、冷徹な軍人というより昭和の冒険小説みたいな雰囲気すら感じさせた。

今とはまったく違う日本。弱小国で戦争ばかりし大家族で人がどんどん死んでいく世界。その中でも国の発展と生き残りのために命をかける男たち。だけどそんな彼らの日常は驚くほど穏やかでありときおり静かな平和だって流れている。真清氏はあくまで合理的な判断を繰り返し、感情だけに流されることなどない現代人と同じ感性を持っている。そこに時代の断絶なんて感じられないのだ。

連作を読みながらいま右翼も左翼も、戦前の日本をまっとうに捉えていないのかもしれない。戦前も戦後も実はしっかりと繋がっているのだ、という実感を持ち始めている。

1巻2巻を読んだ後にもう一度読み返してみたところ、特に登場人物たちの繋がりが鮮明となり二倍楽しめた。
城下の人―石光真清の手記 1 (中公文庫)
石光 真清 / 中央公論新社 (1978-07-10)
読了日:2015年12月27日
石光真清連作は本作が1冊目なのだけどなぜか先に3作目の「望郷の歌」を読んでしまったのであらためてこちらを読み始める。明治元年に熊本の低級武士の次男として生まれたところから始まる。当然明治維新直後だ。そんな時代の熊本の生活を疑似体験できるとは。当時の地名をネット検索しながら読み進めると俄然面白い。明治10年、西南戦争の戦場となった熊本市が当時10歳の視線で生き生きと描写される。薩摩軍の兵士や熊本城鎮台の武将たちとも子供ならではの会話を続けながら炎上する熊本城を活写する。こんな面白い「実話」に出会うことができたなんて手島龍一氏には感謝せざるを得ない。
真清氏が軍人となり、天皇家で仕事をしたり日清戦争に出征したりしながらも故郷へ戻り、結婚するがやはり大陸に引かれてロシア語を学ぼうとするあたりまで。
当時の日本人にとって熊本から東京を経由して旅順やウラジオストクへと往復することはまるで国内旅行のように近い感覚だったのだろうか。まさか。今みたいに飛行機も携帯もネットもないのだから。それでも彼らは僕らよりもずいぶん短い人生のなかであってもゆっくりと移動しては各地で根を下ろしていったのだと思うと今僕が当たり前に感じている「常識」なんてものはただの偏見でしかないのだと実感するよりほかない。
新個人情報保護法とマイナンバー法への対応はこうする!
牧野 二郎 / 日本実業出版社 (2015-11-27)
読了日:2015年12月13日
クラウドについて講演するのに勉強しようと思って買ったんだけど、自社の経営上知っておくべきことが分かりやすく解説してあり、とても勉強になった。
第1章 個人情報とはどのようなものか
  特定個人情報→マイナンバーと結びついたもの、企業は利用できない
  要配慮個人情報→センシティブ情報、文脈により差別される可能性
  一般個人情報→個人識別符号も
  匿名加工情報→ビッグデータ運用のために個人の特定をできなく加工

第2章 新個人情報保護法とマイナンバー法改正の方向
  マイナンバー法導入で個人情報取り扱いを本格化
  ビッグデータ時代の到来
  旧法の弊害を改正(個人の罰則、売買記録、過剰反応対策、個人情報保護委員会 

第3章 新個人情報保護法への対応
  全ての事業者が個人情報取扱事業者に
  音声や一定動作も個人情報に
  個人情報データベースの定義
  オプトアウトからオプトインへ

第4章 安全管理措置についての体制整備
  安全管理措置が義務規定に
  組織的安全管理措置・人的安全管理措置・物理的安全管理措置・技術的安全管理措置

第5章 第三者提供の規制と匿名加工情報の取扱い
  第三者提供の規制(オプトアウト→オプトイン)
  共同利用に大きな制限(Tポイントなど)
  本人の請求権確立
  匿名加工情報の新設(ビッグデータビジネス)
  個人情報保護委員会の設置、権限

第6章 改正マイナンバー法への対応
  個人情報と特定個人情報は明確に分けて運用
  委託管理と安全管理措置
もうダマされないための「科学」講義 光文社新書
菊池 誠 , 松永和紀 / 光文社 (2011-10-14)
読了日:2015年12月26日
Kindleの安売りと知ってダウンロードした後に実は紙の本で既に読んでいたことを思い出した。
ところがかなりの内容を忘れてしまっていたし、今だからこそ理解できるところもあったで再読もためになるものだと実感。科学とは有効な手段に過ぎないのにいつの間にか信仰の対象とされたり逆に異教として排除されたりするので科学者も大変だ。

以前読んだときの感想はこちら
http://mediamarker.net/u/bluesmantaka/?asin=4334036449
沈黙のフライバイ
野尻 抱介 / 早川書房 (2013-04-25)
読了日:2015年12月12日
KindleのSF作品が半額セールというので何冊か買ったうちのひとつ。日本のSFって筒井康隆とか小松左京みたいな古い世代の作品ばかりだったけど現代の作家もなかなか凄い。ガチなサイエンスぶりが楽しかった。アイディアがとても面白いし現実離れしてなくてなかなか良質だ。
・沈黙のフライバイ
  本気でありそうなファーストコンタクト。既存の技術や科学力を日常的に利用して。

・轍の先にあるもの
  もう一つの現代。作者とほぼ同世代だから良くわかる気がする。ほんとはそんな2015年だったはずだ。

・片道切符
  映画Mission to Marsを思い出させる光景だけど深刻さがなくてわりと好き。

・ゆりかごから墓場まで
  このC2Gスーツのイメージはこれから僕の人生にずっと付きまとう気がする。すごい。

・大風呂敷と蜘蛛の糸
  ちょっと難しいところもあるけど、映像が目に浮かんで楽しかった。でも自分だったら3分で気絶してるだろう。
フリーランチの時代
小川一水 / 早川書房 (2011-07-25)
読了日:2015年12月30日
Kindle半額セールで初めて読む作者のSFに挑戦したが、どの作品もひねりが利いてて楽しめた。

・フリー ランチの時代
〜ゾンビものといわれればそんな感じの設定。超重たいテーマをわざと軽く描いたところが光る。

・Live me Me.
〜最近観た映画で言えばトランセンデンスあるいはチャッピー、今年読んだ本で言えばミチオガクのフューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する的なテーマだけどラストシーンは新たな2001年宇宙の旅みたいな。こういうの好き。

・Slowlife in Starship
〜最後の方で旧世代探査機を捕獲するシーン、去年の今ごろ読んだ「火星の人」を思い出した。

・千歳の坂も
〜山田宗樹「百年法」をふと思い出した。本作が先だと思うけど。

・アルワラの潮の音
〜あえてSF設定にしなくても面白い海の物語になった気もする。小松左京の古い小説にちょっと似た雰囲気のがあった気がするけど思い出せない。
国際メディア情報戦 (講談社現代新書)
高木徹 / 講談社 (2014-01-20)
読了日:2015年12月5日
高木徹氏の本はこれで2冊目となる。前作の後日談的なエピソードもあり、なるほどそうなったかなんて思いながら読めた。
ただ前作に比べると連載ものだったせいなのかどこかタッチが違う気がした。何となくだけど手嶋龍一氏や佐藤優氏の著作のような「啓蒙系」な匂いがしたのだ。良いとか悪いという意味ではないです。次にまた本格的なルポが出てくることをめちゃくちゃ期待してます。
回転木馬のデッド・ヒート (講談社文庫)
村上 春樹 / 講談社 (2004-10-15)
読了日:2015年12月7日
忘年会とか同窓会とかで冬の京都に出張した際、少し時間ができたので昔住んだことのある町を歩いていたところアパートの真向かいにあった本屋がまだ健在なことに気づいた。30年前とさほど変わらぬ雰囲気で明かりがついていたのだけどしかし近づいてみると窓に「33年間お世話になりました、今月で閉店します」と書いてあるではないか。僕は思わず店内に入り学生時代とたいして変わらぬ順序で棚を一巡りし、そういえばまだ読んだことなかったよな、と手にしたのがこの本。
泊まっていた部屋や帰りの飛行機の中で読みながらなんだろうこの妙に懐かしい違和感は、と奥付を見ると「1985年10月刊行」と書いてある。今が2015年だからちょうど30年前に書かれた本ということだ。僕はその頃20歳で間違いなくこの本屋に出入りしていたのだから、何となくその時代に呼ばれてBooksランボーに迷い込み、この本を手に取ったような気がしたのでありました。
そしてそんなこととはひとつも関係なく、どの作品も大好きになった。

・はじめに・回転木馬のデッド・ヒート
 〜この本の序章だけど、著者の言葉を真に受けてはならない。僕はこの本に収められている作品はやっぱりすべて村上氏が創作し完璧にコントロールした小説ばかりだと思ったからだ。

・レーダーホーゼン
 〜なぜか酒と泪と男と女ので繰り返される「またひとつ〜」のフレーズを思い出す

・タクシーに乗った男
 〜ちょっと村上龍っぽい作品だと思った

・プールサイド
 〜僕も同じLPを聴いている高校生だったけどまさかそれをこんな風に聴いている夫婦が日本のどこかにいただなんて。小説という媒体の良さを思い知らされる。

・今は亡き王女のための
 〜僕の記憶のどこを探してもこんな王女は出てこないけどこの小説を先に読んでいたとしたらそんな王女を見つけることができたのかもしれないひょっとしたら。

・嘔吐1979
 〜思い出せないけど後のハルキ小説にもう一度出てきたんじゃないかなあこの嘔吐する人。

・雨やどり
 〜この女の人もこのあと村上小説に住んでいる一人になったのだと思う

・野球場
 〜この主人公はきっと小説家である村上氏本人の投影だと思う。それはこの本がテーマとする「他者の話」と密接に関連づけられていると思う。好きな物語だ。

・ハンティング・ナイフ
 〜どんなに静かで大人で落ち着いた人間であってもどこかで人間としてセットされた衝動は残るものだと思う。僕らが将来にわたって武器とわたりをつけることについて思いを巡らせながらなぜか梶井基次郎の檸檬についても。

コメント