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2024-01-17台湾南部旅行記〜3日目 台中→台南

台中朝散歩

あまりよく眠れず、なんだか若い頃にタイムスリップしてもう一度人生をやり直す的なつまりブラッシュアップライフ的な設定の夢をしつこく見るという妙な夜を過ごした。時差があるわけでもないのに枕が変わるだけでいつもと違う夢を見るだなんてそこそこ若いな俺も。だんだん明るくなってきてこれ以上悶々としてても仕方がないぞと妻をおいて散歩に出た。
東協広場という大きなビルの4Fに僕らは投宿している。リノベ案件的なオシャレな空間だ。そのせいか西洋人が多い気がする。エレベータを降りると地方都市の朝に特有な空気が漂っている。うまく表現できないんだけど。

ゆがむ時系列

気の向くまま歩き出す。これ廃墟ですよね幽霊住んでますよね感のビルディングの隣には近代的なビルが佇んでいる。しかし1F部分はどこも同じようなひさしが続いているので歩いてだけだとその差を感じない。ひさしの上に別世界が拡がっているのだ、そう地方都市のアーケード街みたいに。少し距離を置いて振り返るとまるで21世紀と31世紀が連続しているように見える。もちろん廃墟側が31世紀だ。ガイドブックには「台湾に来ると懐かしい日本を発見することができるのです」などと書かれていたが、僕には過去でなく未来に見えたのだった。すっかり落ちぶれて廃墟のような建物が並んでいるがその中には生き生きとした庶民が暮らしている、そんな理想的な未来だ。

遠い未来

数ブロック歩くと電子街という看板があった。東京だと秋葉原か。いやこの感じは大阪日本橋だと思う。そう思うともう限りなく近い。寝不足の頭にはもうここも未来に見え始めている。銀河鉄道999で哲郎が舞い降りたあの街ですよすっかり。身体の弱いオタク野郎がいつか俺も星の海に飛び立つんだとガラクタ集めて作った宇宙船を並べ立ててたあの街ですよここは。

再会

日が昇ってくるにつれ気温も上昇してくる。歩道で主人を待つ茶色い犬と目が合う。そう君はいつだってどこにだっている。お互いを認識しつつも僕らは郷に入っては郷に従う感じで知らんぷりをする。でも別れ際に小さくウィンクするのだ。僕は旅をしているようでしていない。目に入る光景は視神経を通じ、恐ろしく小さな頭蓋の中で展開され混ざり合い、過去も未来も判然としない世界で旅をする。

対岸はベトナムなのだ

そうだ朝飯を食べよう。でも歩いているうちに朝粥系のお店はなくなってしまった。ふとバインミーのお店の前に立った。10年前にサイゴンの露店で食べたバインミーの味が湧き上がってきた。フランス文化と南アジアの奇跡的な融合を逃すわけにはいかん。適当にオーダーして出てきたオープンサンドは僕の理想だった。地図を見ると台湾は海一つ隔ててベトナムなのだ。なんて贅沢な島だろう。

チェックアウト、南へふたたび

2時間近く歩いていた。途中日本からLINE通話が届いて来月の出演オファーとか。もう完全リモートワークで台湾で暮らしてもいいかなって思い始めてたけどそうか、バンド生活もあったっけ。有り難いことだけど。部屋に戻るとさすがに妻は起きてて荷物まとめてチェックアウト。

台中駅→台南駅

台中駅に戻り、台南駅までのチケットを買う。自強号に乗ってもいいけど急ぐ旅でもないし、と各停での移動にした。寝不足も相まってうとうとのんびりの2時間だ。台南駅で降りるとそこは懐かしい感じの駅だった。改修前の熊本駅、八代駅ってこんな感じだった。乗り口と出口が別で横にあるトイレまで同じだった。気のせいか乗客たちもあの頃も僕らみたいだ。
人々が溢れるプラットフォームで僕らはローカル線に乗り換える。博物館に行くのだ。永康という名の駅で降りるとそこは完璧なローカル駅で食事の店など見当たらない。博物館行きのバスもあと1時間ほど待つ計算だ。たまにはいいか、と駅前でのんびり待つタクシーに乗り込んだ。目的地を伝えると運転手のオヤジは気持ち良くアクセルを踏んだ。海外でタクシーというともう人生掛けて交渉するイメージだがなんてことはない、メーター倒してGOです。

国立台湾歴史博物館でランチ

3kmほど走るとここだよ、と停めてくれたのが国立台湾歴史博物館だ。広大な敷地を歩くとチケット売り場の横にレストランがあった。まだご飯食べてないよね、と入ることにした。さすが国立だ。カレーやサラダがいちいちオシャレだ。値段はほぼ日本と同じ。定員さんが丁寧に料理してくれるのをぼやっと眺めているのはちょっと幸福だ。なんてことのない行為が喜びをもたらし、そこに金銭を支払う。つまりありのままが価値を成す、そんな当たり前のことを僕らは忘れかけていた気がしたのだった。

歴史を学ぶのです

海外旅行に出るときは必ずその国の歴史を読むことにしている。といっても長大な歴史小説を読み込むとかでなくたいていは新書1冊を読む程度だ。今回もKindleで購入した台湾の歴史という書物を半分ほど読み、残りは旅しながら読んでいる。同じように現地についたらできるだけ博物館に寄るようにしている。ここは日本語の音声ガイドマシンも借りることができて、2時間ほどでここ数百年の台湾モノガタリをざっくり頭に入れることができた。
西洋との接触、日本による統治、中国大陸政府との関係、そして民主化。固有のなんとか、じゃなく縁があって暮らす人たちが受け入れ、反発し、いまだ悩みながらも捻り出してきた最適解、みたいな力強さを感じた。折りしもここでは四日前に総統選挙、議会選挙があったばかりだ。この島は簡単に負けない。そんな感覚を得た数時間だった。帰国したら深掘りして、また来ないと。

台南の宿にチェックイン

博物館からはバスに乗って台南駅へ。今日から4泊する宿は台南駅から歩いてすぐの民泊らしい。1階が喫茶店らしいけどそこは17時に閉まっていますので、事前にLINEで連絡のあった暗証番号と合鍵でチェックインする。大通りから横丁に入りそこからクルマも入らない小径を歩くと目的の宿があった。まるで11月にバンドで泊まった京都駅近くの民泊と同じ雰囲気だ。
台南哈妮小屋 Honey House Tainanという名前の宿は駅から近いというロケーションもあってお値段はちょっと高いけど、部屋を借りて住んでますって感じを楽しめる良い空間だ。窓どころかベランダまである。メイン道路から引っ込んだ路地の二階なのでとても静かだ。Wi-FiはもちろんCATVまで揃っているしトイレやシャワーも各部屋完備という贅沢ぶりである(僕らにしては)。まずは荷物を置いて、また出かけることにした。今夜も夜市だ。

台南駅ロータリーに面したバス停までは徒歩7分ほど。Googlemapが教えてくれたバスに乗ると30分くらい掛けて夜の町を移動していくんだけどどういうわけか夜市から1kmくらい離れたバス停で降りてしまった。真っ暗な道を二人で歩いて行くのもまた楽し。スマホで行き先がわかるのも安心だけど、いかにも夜市帰りの家族連れが歩いていたりして、夜の街歩きも良いものだ。

武聖夜市

台湾二度目の夜市は武聖というなかなか引き締まったネーミングだ。敷地内に入ると昨日とは異なりもはや全面的に屋台である。ずらりと並んだ肉鍋からもうもうと蒸気が立ち上る風景は闇市もしくは難民キャンプのようだ(両方とも実際に見たことはないけど)。僕らはまた隠し持ってきたビール缶を開けながら祭りの子供のように歩いて回る。ささくれだった様子などちらりとも見せない庶民たちに紛れてイカ焼きや唐揚げを食べるのだ。
ここでもゲームは主役だ。もちろんデジタルではない。徹底的にアナログなパチンコ、射的、麻雀や輪投げに人々は夢中になっている。ゲーム狂の妻がさっそく挑戦していたが総じてシンプルで中毒性が高いようだ。僅かなお金で長時間楽しめるよう工夫されている。1ゲームでながいこと楽しめるので、まだまだぁ、とコインをつぎ込むこともない。少し歩けば他に楽しいゲームが並んでいるのだ。

弓を引く

噂には聞いていたがアーチェリーもあった。高校時代、弓道に入れ込んだ我が身としては断れない(誘われてもいない)。矢を借りて少し離れた的を射るのだが、和弓とは勝手が違ってあきまへん。矢をつがえる位置が逆だったり。外しまくったあげくに指も痛くなって1回だけで諦めた。しかし楽しかった。こんだけの群衆の中で矢を射るって日本だと完全に規制されてしまってできないと思う。
アーチェリー体験動画です。ちっとも当たりません。ちなみに周りの人たちはバチバチ当ててました。訓練が足りないのだろう。また弓道したくなった。


イカ焼き。あちこちでイカは人気だった。海産物を焼いて食えば世界中同じ味がする。そして世界中同じ笑顔になる。そういえばタコはあんまり見なかったな。

ベビーコーン。あまーい味付けが施されてスナック感覚だった。日本と違って若い店員さんが多い。いかにもテキ屋でございって感じの人もいたけど、多くは家族経営って雰囲気だった。多くの夜市は昼間駐車場で、毎日設営撤去を繰り替えすらしい。いま日本の能登半島では大きな地震で大変なことになっている。この屋台システムを夜市ごと持って行くことができないだろうか、なんて夢想するのだった。そして今日は1月17日だ。
妻がパチンコにはまってるのを後ろから覗いてたら、ほれ、あんたも隣でやりな、と声を掛けられ座ってみる。玉を買うシステムだから何人でやろうと関係ないらしい。やってるうちにルールが分かってきてなかなか巧妙に作られてるもんだと面白くなってきた。
奥に見えるトイレに行こうと歩いてたら大の大人たちがこのミニパチンコに熱中してて思わず写真撮ってしまう。老いも若きもオタクもヤンキーも夢中にさせてしまうアナログゲーム、深いよ。店員さんも煽るでもなく監視するでもなく和気藹々と対応しながら適当に盛り上げている。
バスケットボールの盛んな台湾らしい光景。ただひたすらボールをゴールさせるのだが、皆さんなかなかうまくいきません。と、そこで店主らしきおばちゃんが「こうするのさ」的なことを言いながら片手で10球ほど全弾命中させる妙技を披露、そこにいた全員がひっくり返って拍手する。毎夜繰り返されるエンタメなのかもしれないが、間違いなく世界を明るくしている。たとえまた戦争になってもこの人たちは負けない気がした。

親切なお姉さんと犬に助けられる

2時間ほど夜市を楽しんだ僕らはそろそろ帰ることにした。例によってGoogleMapで検索したバス停まで歩くのだが途中で何か間違ってしまったようだ。便数が少ない夜のバスを求めて2km近く歩いてしまった。右膝が痛み出した妻とコンビニに入って一休み、たどり着いたバス停で待っているが時間を過ぎてもなかなか来ない。地元のバスアプリでは既に出発したことになっている。まあ時間通りに来るとは限らないから気長に待つか、とベンチに座っていたらミニバイクに乗ったお姉さんが突然Uターンして近づいてきた。ハンドルにくくりつけられたリードの先には柴犬が居てスクーターの足下に腰掛けている。新しいスタイルの夜の散歩か。ここがインドだと「バスは今日休みだ、俺がいい宿を知っているからついてこい」という展開なのだがここは台湾だ。スマホを取り出した彼女は翻訳アプリを起動して僕らに「もうバスは来ない。タクシーでしか移動できないよ」と伝えてきた。どうみても親切なお姉さんだ。「私がタクシーを呼んであげるから、少し待ってて。タクシーくるまで一緒に居てあげるから」と言ってくれる。僕らは素直に従うことにした。タクシーが来るまでの数分間、僕らは柴犬ともすっかり仲良くなって打ち解けた。動物となら翻訳アプリも不要だ。今朝はあんなに知らんぷりだったのに。
ほどなくしてやってきたタクシーに駅まで、と伝えるとお姉さんは笑顔で手を振って犬とともに夜の住宅街に消えていった。車中僕らは「レオンが助けてくれたのかな」と言葉少なに語る。

本日の移動ルート

今日は移動も多くてさすがに疲れたようだ。昨夜の睡眠不足もあいまってシャワー後はぐっすりと眠れた。僅かな時間で僕らはこの街の虜になってしまった。明日から週末まで満喫することにしよう。
台中から台南へ。博物館と夜市。盛りだくさんの三日目でした。

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